「あ……っ、そこ、もっと……!」 悩ましげに身をくねらせ、純一がささやく。 ――マジかよ。 いっそうあおられ、また一段と昂ぶるが、ともすると佐伯は引いてしまいそうな思いだ。 深夜で、雨戸を閉め切った部屋には枕元のスタンドが灯るだけで、その淡い光を受けて、純一の白い肌が闇に滲んで目に映る。 しかし頬は薄紅に染まり、細めた眼差しはとろんと蕩けて、唇も喘ぎ続けて濡れ、色を濃くしてひどくなまめかしい。 「あ、んっ……、そ、ちゅくちゅくして――」 マジ、純一かよっ。 胸を反らして、佐伯の口元に乳首を突き出してくる。それだけでなく、自分でもまさぐるようにして、そこを指先でしっかりと示す。 「ねえ……してぇ」 甘ったるくねだられ、ドクンと股間に響いた。たまらず、佐伯はむしゃぶりつく。 「はあっ、ん!」 望みどおりにちゅくちゅくと吸ってやり、舌で転がして甘噛みする。 「いいっ、ん――」 両手で髪をかき乱された。 ――ったく。 呆れそうになるが、こんな純一もかわいいのだから自分もどうしようもない。恥ずかしがってばかりのこれまでからは考えられない大胆さが、いっそ新鮮だ。 しかし、なんだって、こんな――。 まだ酔っているからだろう。明日は出荷がないから、純一の父親も一緒になって夕方から飲み始めた。隣家の多並が芋焼酎を持ってきてくれたことがきっかけだ。 『これ、うまいから飲んでみろって。明日はバレンタインだっぺ?』 純一と買いものから帰ったら、玄関で鉢合わせになった。純一の父親に渡しかけていた芋焼酎をいきなり自分に差し出してきたのだ。 『……熟女キラー』 背後で、ぼそっと純一が嫌味っぽく言ったから、危うく吹き出しそうになった。 ……やっぱ、あれだな。 夕食のおかずにするはずだった焼き魚と、大根と豚バラ肉の煮物を肴に代えて、いつものイカの塩辛と、やはり多並からのもらいものの漬物も仏間のこたつに運び、三人で飲み始めてすぐに純一が仏頂面で言ったのだ。 『やっぱ、これは全部オレが飲む』 かなりイケる芋焼酎だったが、純一の父親は日本酒党で、特に何か言うことはなかった。 『全部飲むって――平気か?』 一ヶ月でもホストをしていたくらいだから量としては飲めるにしても、飲み始める前に芋焼酎は初めてと言っていたので気になった。 『平気とか、そんなのカンケーねーし。平気じゃなくても、これはあんたに飲ませねえ』 ――だよな。 還暦前後の女性にまで嫉妬されては、何も言えなくなった。その前から、ちょっとした針のムシロ状態だったのだ。 ふたりで軽トラに乗って買いものに出かけて純一は上機嫌だったのだが、JAの直販店ではアルバイトの専門学校生から、鮮魚店では手伝いの女子高生から、行きつけの喫茶店でもアルバイトの若い女性から、自分だけが小さな包みを手渡された。 『なんで、もらうかな。へらへら笑ってさ!』 へらへら笑ってなどいなかったが、最後にとうとう言われて、一気に機嫌を悪くされた。 それで帰宅したらダメ押しの多並だ。買いものの途中、JAの直販店からショッピングセンターに移動してすぐに、ちょっといいかと照れくさそうに笑って純一はどこかへ消えたのだが、あれは自分に何か買ってきてくれたのではなかったか。まだ何も渡されてないことが気にかかる。 なんか……もう、もらえない気がする。 「はんっ、……ね、して――」 純一が興奮をこすりつけてくる。丸みのある先端が、下腹にぬるぬると滑った。 「して、って。何を」 さすがに意地悪な気分にもなる。なんの手管もなく乱れる純一は派手になまめかしく、決して嫌ではないし、むしろ好みで言うならド真ん中なのだが、こんなふうになっている理由が気に食わない。 マジ、酔うとこうなら、ヤバすぎだろ。 ホストをしていた一ヶ月間を思うと不安だ。仕事は女性相手でも、酔って正体をなくしているあいだに誰に何をされたかわからない。 初めてのときも、口で言うほどダメじゃなかったし――。 わりとスムーズに自分を受け入れたと思う。それに、ちゃんと感じていた。 「あっ、やん!」 佐伯は急に苛立って純一の興奮をつかんだ。性急にしごき始める。 「やっ、ダメ、ちがっ、……言う、――して、口でして〜」 半泣きの声を耳にして、ハッとなった。見れば、純一は片腕で顔を覆い、ひくひくと肩を震わせている。いきなりの強烈な刺激は、快感より痛みが強かったらしい。 ……俺としたことが。 憶測にすぎないのに、仮想の相手に嫉妬してしまった。純一が性にルーズでないことは疑いようもなく、むしろ呆れるほどウブだ。 けど、それが心配なんだよな――。 「……ん。いい――」 ねだられるままに興奮を口に含み、舌を絡みつけて唇でやわらかくしごけば、甘い声をこぼした。 「あん……もっと、して」 淡い茂みに指を忍ばせ、脚の付け根に沿わせて強めに撫で下ろしてやる。そうして睾丸も手のひらでもてあそんでやり、後ろに続く道筋を何度もなぞり始める。 「や、はっ……!」 興奮を舐め回す口から唾液をしたたらせた。純一の股間を伝わせて後ろの狭間まで濡らす。 「あ……も――」 片膝を立てて、純一が大きく脚を開いた。腰も浮かせて、いつにない積極的な態度に、佐伯はまた少しだけ苛立つ。 そもそも、こうなったのも純一が仕掛けてきたからだ。照れまくりながら、それとなくせがまれることは何度かあったが、熟睡している横に裸でもぐり込まれたのは今回が初めてだった。 先に、頭に何かが強くぶつかり、それで目が覚めた。その前にも蹴飛ばされた気がしたが、短時間で深く眠るタチだから、そのときは目が覚めるほどではなかった。 『寒い……』 純一の声が聞こえ、薄目を開けた。しかし部屋は真っ暗で、電気もつけずにベッドから降りたのだと思った。 睡眠を妨げられた苛立ちから純一を布団に引っ張り込んでやろうとしたが、そうする前に純一からもぐり込んできた。手探りで全裸と知って、びっくりした。 多並がくれた芋焼酎を宣言どおりにひとりで空けたはいいが、その場で純一は寝潰れてしまい、自分がベッドまで運んだのだ。服を脱がせるにも自分も酔っていたから面倒で、そのまま寝かせたはずだった。 『シャワー浴びたのか?』 髪が湿っていて、抱きついてきた純一の首からボディシャンプーの香りがした。 『ん――』 それで二度も頭を蹴られたことには納得がいったが、この状況は腑に落ちなかった。 『……おい』 純一が、ぎこちなく股間をまさぐってきた。眠っている間に硬く屹立したものを確かめるように、下着の中にまで手を入れてきた。 『……やっぱ、でか』 何を言ってるんだと思った。寝ぼけているにしても、シャワーを浴びたと聞いたあとだ。 『ねえ……したい』 耳元でささやかれ、背筋がゾクッとした。そんなダイレクトな言葉を純一が聞かせたのは、初めてに違いなかった。 『けど、おまえ――』 『んー、キスする〜』 唇を寄せられて、芋焼酎の匂いがかすかに漂った。 『ちょ、待てって。まだ焼酎くさいって』 『知らなーい』 『いいから、おとなしく寝てろ』 『やだー』 言ったことを聞かずに唇を押しつけてきた。舌を出して佐伯の唇を舐め、早く開けとねじ込んできて、佐伯を慌てさせた。 いったいどんな顔でこんなことをしてくるんだと、佐伯は枕元のスタンドをつけた。 パッと照らされたまぶしさからか、純一は目を細め、片腕の陰から佐伯を見上げた。 シーツに散った髪もしどけなく、薄く開いた唇も、とんでもない色っぽさだった。誘う顔をどうやって覚えたのかと、小一時間ほど問い詰めたい気分に駆られた。 『……ね、しよ? 俊哉も脱いで――』 そうして、こうなっている。だから、純一から酒が抜けていないのは間違いない。 ったく! 自分に向かって大股開きするには十年早いと言ってやりたい。あおって、そそのかして、どうなっても知らないぞと、内心で毒づく。 「ここに欲しいんだな」 あえて荒っぽく、指を突き立ててやった。少しもぐらせただけで、きゅっと締めつけてくる。 「ああん」 「……おまえなー」 純一が身をよじるに合わせて、うつ伏せに返した。小さく締まった尻を両手で鷲づかみ、狭間に沿って双方の親指を這わせる。 「はっ」 純一が背をしならせるのを見て、ずぶっと同時に二本を挿し込んだ。 「ひっ、んんー……」 引きつった声を小さく上げたが、それきりだ。まだかなり酔いが残っているのか、感覚が鈍くなっているらしい。 前をいじくったときは痛がったくせに。 いっそ冷淡な気持ちが湧く。純一には甘くやさしく、蕩かせてやりたいと思ってきたが、その限りでもないかもしれない。 ――だな。初めてのときも大丈夫だったんだし。 自分の持ちものを存分に使って、もうダメだ、これ以上は勘弁してほしいと、涙を流して許しを請うまで、強烈な快感を教え込んでもいいように思う。そのくらい、これまでのセックスでは甘やかしてやった。 俺の一生のパートナーになってもらうんだし――。 それは自分の勝手と知りながら、思った途端に切望に変わった。 純一の父親も相当に酔っていたから、今は母屋で熟睡しているはずだ。たとえそうでなくても、冬場は雨戸を閉め切っているから、簡単には外まで声が漏れることはないだろう。 純一は、いつも気にしてるけどな。 「ああっ!」 背を仰け反らせ、純一が濁った声を上げる。二本の親指で純一の内壁をこすり、じわじわと広げていく。 「と、俊哉――」 不安いっぱいに呼ばれた。純一は肩越しに振り向いて視線を流してくる。だがそれは、まったくの逆効果だ。艶を増した表情を見せられ、一気に燃え立った。 「ああー……」 細い腰から背骨に沿って、唾液でたっぷりと濡らしながら舌で舐め上げていく。純一の肌はなめらかで、舌触りも極上だ。 右手を尻から離し、わき腹をじっくりと撫で上げた。胸に回して乳首をつまむ。 「はんっ」 ビクッと跳ねた体を顎で押さえつけた。肩甲骨のくぼみを舐め回す。 「と、……俊哉」 細く漏れた声は湿って震え、快感を訴えたにほかならない。尻に残した左手は、中指と薬指を使って、純一の中をほぐしている。 「ふっ、んー……あ、そこ」 純一のいいところはとっくに知れていて、そこを徹底的に攻めた。腰が揺れて、もっとほしいとねだってくる。そうしながら、自分でもシーツで興奮をこすり始めた。 ……しょうがねえな、二十歳じゃ。 呆れる以上に、ほほ笑ましい。軽く首筋に噛みついてやる。きつく吸って、くっきりとキスマークをつける。自分の所有のしるしだ。純一は、誰にも渡さない。 俺が出逢って、俺が落としたんだ――。 たとえ偶然でも、この家に自分が来たことが運命だったと思える。 五月のあの日、ホストクラブを辞職してから趣味のバイクで遠出を繰り返していたさなか、畑作業に精を出す人が目に止まり、路肩にバイクを停めて飽きずに何時間も眺めた。 消費を繰り返すばかりの日々は、もうこりごりだった。客のわがままにも従業員のわがままにも、二度と関わりたくなかった。 新しく仕事を始めるなら生産する職業がいいと、その場で決めた。農業ならJAだろうと、ほとんど思いつきで、目に入った営業所に立ち寄った。 あの場に純一の父親がいなかったら、今の自分はなかっただろう。いい目をしていると言われた。自分も、純一の父親の目を見て同じことを思った。迷いのない、力強い眼差しだった。 だから――。 純一との出逢いは、まったくの想定外だ。純一が働いていた工場が倒産したのも六月の末のことで、ひとり息子がいると聞いてはいたが、自分が会うことはないと思っていた。 それが、今はこんなだ。 「はあっ、あ、あ、あ、ああー……」 両肘をついて胸を反らせ、純一は明らかに快感に震える。しなやかな背も、ほんのりと色づいたように感じられ、舌で何度も辿った跡が濡れてなまめかしく目に映った。 「純一……」 佐伯は、ささやかずにいられない。 「かわいいよ――愛してる」 言葉を積み重ねれば、思いの丈が伝わるか。そうだったら、どんなにいいかと思う。 そんなことを思わされた相手は純一が初めてだ。なぜかなんて、無粋なことは考えない。心が感じることを信じられる。 純一といると、やさしく清らかな気持ちになれる。 なのに、いやらしいことしてるんだよな。 自嘲すれば、いっそう燃え立つのは自分のサガだろう。それすら間違いでないと思える。 「……ここがいいんだろう? もっとか?」 「も、もっと……あ!」 純一の中にもぐらせた指をぐるりと回した。ポイントからはずれて戻る感触が、純一を焦らして悶えさせる。 「やー……ああんん」 素直に啼かれて、佐伯は胸がいっぱいになる。純一に身を重ね、唇で耳をまさぐった。やわらかく噛んで、その中まで舐める。 「やん」 今まで抱いた誰よりも、純一が一番気持ちいい。純一にもそうであってほしいと思う。 胸をいじくっていた手を滑り下ろし、純一の興奮を握る。今度は、ことさらにやさしくしごいた。 「は、ダメ――い、く」 猫が伸びをするような格好になって、純一が腰を突き上げてくる。それでなおさら指が深く刺さり、喉を反らして喘いだ。 「あ、も、……どうしよ」 酔いが残っているせいだろう。イきたくても、なかなかイけないようだ。 「ほら」 中を探る指はそのままに、純一を横向きにし、自分も体の位置をずらして、佐伯は再び興奮を口に含んだ。 「ああっ」 どんな声を聞かされても、純一ならどれもがいとおしい。吐精を促し、丹念に舌を使う。 「いい……すご、オ、レも――する」 体を丸めてきたから驚いた。男を受け入れることはできても、自ら男を悦ばせることは純一にはできないと思い込んでいた。 咄嗟のことに慌てそうになったが、純一の手すら目指すところに届かず、目の前でひらひらと舞う。 くっそぅ……かわいすぎるんだよ! 「あん!」 あおられるのも限界で、強引に純一をうつ伏せに戻した。腰を引き上げ、ぎりぎりまで猛ったものを尻の狭間にあてがう。どうにか自制して、ずぶずぶと挿し込んでいく。 「はあっ、……あー、いやっ、ダメダメダメ、ああん! いい――」 ゆっくりと、しかし次第に速さを増して、純一も腰を使い始める。膝立ちになった佐伯の律動に合わせ、尻を打ちつけてきた。 「いい、いい、すごっ……気持ちいい――」 ぬちゃぬちゃと隠微な音が耳を浸す。純一はシーツに突っ伏し、両手を這わせてしがみつこうとするが、しわを寄せるばかりだ。 佐伯は、右腕を純一の胸に回した。そうして、ぐいと抱き起こした。突き挿したものはそのままに、あぐらに組んだ脚の上に純一を乗せた。胸にぴたりと引き寄せる。 「はあっ、あー……」 仰け反る純一を振り向かせ、喉元にきつく吸いつく。そうしながら、双方の乳首を両手でつまんでもてあそぶ。 「いやぁ……っ、ダメ、もうっ!」 純一を突き上げる動きも止まらない。視線を下げれば、純一の興奮も反り返って跳ねている。 「俊哉、俊哉」 せつなく呼ばれた。キスをねだられ、開いていた唇に舌をねじ込んだ。ねっとりと上顎を舐めると同時に、ぐっと深く純一を貫く。乳首も、きゅっとつまんだ。 「ふっ、ん!」 びくっと背筋を伸ばし、純一は喉を鳴らす。唇を解放したら、全身で小刻みに震えた。 「あ、あ、ああー……っ」 白濁を放ち、ぐったりと倒れてくる。それをしっかりと受け止め、佐伯はぎゅっと強く純一を胸に抱きしめた。 「く、ぅ」 もう限界で、放たずにはいられなかった。純一の首に顔をうずめ、絶頂の快感に震えた。 互いに、吐く息は熱く湿ってせわしない。どちらも動けずに、寄りかかり合った。 「も、ダメ――気持ちよくて、溶けるぅ……」 舌をもつれさせ、喘いで純一が漏らした。佐伯の肩に、カクッと頭をもたせかけてくる。 「――とろとろになれたか?」 純一の湿った髪を唇でかき分け、チュッと額にキスをした。 「……いじわる」 上目づかいに、とろんと見つめられる。 「あんた、すごすぎ――」 ほうっと、艶っぽい吐息を純一は落とした。 「おまえがエロいんだよ」 フッと口元が笑みでゆるみ、開いた唇を佐伯は重ねる。絡みついてきた舌に、舌を絡め返して、そのままゆっくりとシーツに倒れた。 いじわると言われた理由はわかっている。まだ純一の中にあるものは、再び硬くなっていた。純一を仰向けに組み敷いて、見上げてくる瞳がまた誘っていたから、何度でも達せそうだった。 「ちょ、なにこれっ!」 耳元で、裏返った声がして、目が覚めた。雨戸の隙間が明るく、ガバッと身を起こした純一がぼんやり見て取れる。 「なんでオレ布団っ? つか、裸っ? うわっ、べたべたじゃん! 何してくれたんだよっ、俊哉!」 勢いよく振り向いて、純一はわめき散らす。 はっきり言って、イラッとした。昨夜の今朝で、どうしてこうも元気でいるのか。 「……うるせー。さみーんだよ、布団戻せっ」 「じゃないだろ! あんた、オレの寝込み襲ったのかよっ?」 「バカ言うな! おまえが俺の寝込み襲ったんじゃないかっ!」 さすがにムカッとした。体中ギシギシで、とにかく眠い。 「はあっ? オレが襲うかよっ?」 しかし、それには眉が寄る。何も覚えていないと、純一は言うのか。 ――って。いくら酔ってたにしても、あんなにしたのに? 「おい」 仏頂面になるのは抑えられず、純一を睨みつけて言う。 「とにかく、布団戻せ。寒い」 「って! こんな、べたべた――」 「おまえのだろっ! うっせえんだよっ」 面倒になって純一を引き倒す。布団を思いきり引っ張り上げて、ふたりでくるまった。 「え? ……マジ?」 間近で純一が目をしばたたかせるから、つい笑ってしまう。 「覚えてないのか? よがりまくったくせに」 「――え」 見る間に純一は目を丸くして、ポッと頬を染める。 「おまえなあ……」 笑いが込み上げて止まらなくなった。純一を抱き寄せて、佐伯は肩を震わせる。 「背面座位で、あんあん啼いてイッたんだぞ」 「――えっ!」 「おまえがねだるから、抜かずの三発だ」 「はあっ?」 「マジ、覚えてないのかよ?」 純一は、サッと頬を強張らせる。う、と声を漏らし、たちまち真っ赤になった。 「ぎゅって、締めとけよ?」 「う、うっせー。出てきちゃったじゃん……」 何を言ったかわかるから、しっかり抱きしめてやった。 「どうなんだ? 二日酔いは大丈夫そうだな」 「……平気。つか、頭スッキリ――」 「どこから覚えてないんだ? 俺がベッドに運んだんだぞ?」 「……知らない」 「おやっさんの前で、俺に膝枕したのは?」 「マジッ……?」 今度は、一瞬で青ざめたようになる。 「あれは呆れてたな。ま、芋焼酎一本空けた時点で、どうでもよくなったみたいだけどな」 「うわーっ」 純一は頭を抱え込む。居たたまれないのか、じたばたともがいた。 「……思い出したか?」 「ぜ、ぜんぜんっ!」 だが、ひきつった顔を上げてきた。じっと目を合わせ、佐伯は確信する。 ……断片的にでも思い出したか。 だから、あえて言ってやった。 「昨日のおまえ、エロエロだったなー」 「い、言うなよっ!」 「ちゅくちゅくして、って。あれ、なんだ?」 純一は、絶句したようになる。途端に、胸に顔をうずめてきた。 「おまえ、風呂で抜いてるだろ。部屋じゃ、してないもんな?」 目の前で、ビクッと肩が揺れる。佐伯は笑いたくてたまらない。昨夜、純一がなかなか吐精に至らなかった理由は、酔いが残っていたことのほかにもあるようだ。 「白菜やキャベツは重くて、マジ腰にクルから週一限界とか言って、ひとりエッチは毎晩か。そのくせ昨日はああだからな。溜めすぎだろ」 「う、うっせ!」 真っ赤な顔で睨み上げてきた。我慢できずに、佐伯はプッと吹き出す。 「いいんだ、おまえが覚えてないって言うなら、昨日のおまえは本当に俺だけのものだ。どエロでかわいかった――たまらなかったよ」 「あ……っ」 油断していた純一がいけない。すぐそこにあった唇を佐伯は奪い、昨夜の余韻を楽しむキスにする。たっぷりと貪り、糸を引かせながら絡め合わせた舌を解いた。 「……は、あ」 純一があえかに息をつく。うっとりとした表情に変わった顔を薄闇に見つめ、佐伯は心から満たされた。 「純一。――愛してる」 純一に唇を寄せ、しっとりとささやく。 「何度でも言う。おまえが好きだ、俺にはおまえだけだ。何をもらうより、昨日のおまえがもらえてうれしかった」 「……俊哉」 「だから、多並さんにまで嫉妬するな」 「――は?」 「抜きたいときは俺にさせろ。入れないから」 「な……っ!」 「それから、芋焼酎はもう飲むな。ヤバすぎるだろ」 だが、それに返事はない。そっと純一の目を覗き込む。 「……飲まないし」 拗ねた上目で見つめ返された。 「ワインなら、ボトル一気できんのに、あんななるんじゃ……あんなの、自分でヤだし」 え、と思う。もしかして、すべて思い出したのか。 「あんた……エロすぎ」 いつもどおりに照れまくって言われ、なんだか安堵した。 佐伯は、くしゃっと純一の髪をつかむ。うれしそうに抱きついてこられ、フッと口元で笑った。 「純一……」 愛してる、と続けるはずの声を飲み込んだ。たまらない笑顔で純一が唇を近づけてきたから、やわらかく重ね合わせた。 おわり ◆作品一覧に戻る |
素材:あんずいろ