Words & Emotion
輪の外
Out of a Circle
3 labyrinth
ヤスヒロは私の提案に頷いた。意外にも、あっさり頷かなかったのは、3Pのもうひとりがシンジだからだった。
「どうやってあいつと話つけたんだよ」
ほどほどの嫉妬と独占欲はスパイスになる。
「シンジ、ヤスヒロのこと好きなんだって」
「……へえ」
へえ、ってのはよかった。ヤスヒロって、本当にナンデモアリだと、つくづく思う。
男とするんだって、本当にわかってるのかな。しかも、その男は――シンジは、ヤスヒロが好きだと言うのに。
「それより、マジ、おまえシンジとはしないんだろうな」
「あたりまえじゃない。シンジは私としたいんじゃないんだもの」
どこまでもヤスヒロの気がかりはそれだけだった。私はそれをうれしく思う。
なんとなく、シンジの思惑にのせられたようにも感じていたのに、いざとなるとシンジは逃げ腰だった。
「おれとしたいんだって?」
ダイレクトに訊いたヤスヒロもヤスヒロだけど、うろたえて俯くシンジはウブそのもので、私は笑いを堪えるのが大変だった。
いつもの学校帰りの道、いつもと違うのはヤスヒロとふたりきりではないことだ。シンジは連行される罪人のように、とぼとぼと私たちの後ろをついてくる。
変なの。いったい何が罪だと言うの? 私はこんなにわくわくしているのに。これからどんなに楽しい時を過ごせるのか、それが待ち遠しくて、うちに向かう足も速くなる。
ヤスヒロはいつもと変わらないように見えた。私が玄関の鍵をあけるのをじっと待っている。シンジは落ち着かないようで、神経質そうに、こそこそとあたりを見ていた。
それをどう思ったのか、ヤスヒロはいきなりシンジの肩を抱いた。開いた玄関の中に、ぐいっと引き入れる。その体勢のまま上がり、私の部屋までシンジを放さなかった。
「ほら、来いよ」
余裕の笑みで口許をニヤリと歪めてヤスヒロはシンジを引き寄せた。正面に立たせて制服を脱がしにかかる。私の目の前で、されるままに裸になっていくシンジの後ろ姿をじっと見つめた。
あらためて眺める体は悔しいほどにきれい。細い腰も、形良いお尻も、そこから伸びるすんなりした脚も、ただ、きれいだった。
裸になったシンジをベッドに押し倒してヤスヒロも素早く制服を脱ぐ。それを見て、私も下だけ脱いだ。制服の白いシャツは腿まで隠してくれる。シンジは私の裸を見るのを嫌がっていたし、もっとも、私のCカップの胸や男にあるものがないそこを見て、シンジが引いてしまっては面倒だった。
「どうする?」
ベッドに上がり、ヤスヒロは私に振り向いた。
「まかせて」
いよいよだ。まずは、ヤスヒロのその気を煽ること。シンジがそのときにはどれほど色っぽいのか、男だってそこを使えばどれほど感じるのか、それをヤスヒロに見せたかった。
私はヤスヒロとシンジのあいだに入る。仰向くシンジの脚をまたいで、両膝をついた。ヤスヒロも膝立ちになって、私の肩越しにシンジを覗き込む。
シンジは脅えたような眼差しで私たちを見ていた。この期に及んで、まだ決心がぐらつくのかと、少し呆れた。
鼻先で笑ってしまった私の耳元で、ヤスヒロもくすっと笑った。振り向いた私とヤスヒロの目が合って、軽くキスをした。
シンジに目を戻すと、大きく目を開いて固まっていた。まったく手のかかる。いつものスカしたあんたはどこに行っちゃったのよ。
「ねえ、ヤスヒロ。いつも私にするみたいに、シンジにやさしくしてやって」
「マジ?」
口ではそう言いながらも、私が体を避けると、横から手を伸ばしてヤスヒロはシンジに触れた。瞬間、シンジの体はびくっと震える。
「なんだよ、すげえな」
シンジの肌に手を這わせるヤスヒロの横顔を見つめた。意地の悪い笑みは、そそられている証拠だ。
少し安堵して、私はベビーオイルを手に取った。蓋を開けて左手にたっぷりと垂らす。両手を合わせて、こぼさないように温める。
ヤスヒロに体中を撫で回されて、シンジのそれは立ち上がりかけていた。それを私の手に包んで、ゆっくりと絞り上げた。
ひくつき、硬度を増すシンジを手のひらに感じた。その様子を見たからなのか、私の脇腹に当たるヤスヒロのものも硬くなっていた。
ヤスヒロは私にシンジを任せて体を退いた。再びシンジとヤスヒロのあいだに入って、私は身をかがめた。
じっくりとシンジのそれを右手で愛撫する。左手はシンジの胸の粒をもてあそんだ。それ相当にシンジの息は乱れていく。
ヤスヒロは、私を背後から抱きしめた。私の首筋に顔を埋め、肉厚の舌でそこを舐める。シャツの上から私の胸をまさぐる。
「なんで……」
シンジは不満げに声をもらした。シンジを煽るのは私で、ヤスヒロは私を煽っているのだから気に入らないのだろう。
「なんでって――やっぱ3Pだし」
ヤスヒロが答えた。ひどく冷たい、傲慢な声だ。その声を背で聞いて、それだけで私はぞくぞくした。
シンジのものをよりいっそう熱心に扱く。その陰の部分にも触れる。シンジは諦めたように目を閉じた。なのに、シンジのものはさらに硬くなっていく。
変なの。その気がなければ触られても立たないって聞いたことがある。なによ、口では何を言っても、シンジ、感じてるんじゃない。
ベビーオイルでぬるぬるする右手を滑り下ろしてシンジの後ろの谷間に潜らせた。
「あ」
小さく叫んでシンジはかすかに身を捩った。でも、それ以上は動かなかった。このあいだ知った快感をシンジのそこは待ち望んでいる。
私は指の腹をゆるゆると動かす。中心から周辺へ、周辺から中心へ、それを何度か繰り返し、いよいよそこに中指を挿し入れた。
「あ……ミ、ミチ――」
私の名を声にしたシンジの口は、即座にヤスヒロの大きな手に塞がれた。身を乗り出したヤスヒロは、忘れずに私の唇にキスをする。
なんか、うれしくなった。シンジに埋めた指を少しずつ進めた。曖昧な記憶を頼りにシンジの感じるポイントを探る。
「ひっ――あ!」
ヤスヒロが手を放すと同時にシンジの口から声が飛び出し、私の目の前でシンジのものはぐんと大きくなった。ヒット。そのポイントを外さないように、私は指先を少し曲げてぐりぐりと刺激した。
「ん、ん、ん!」
びくんびくんとシンジの背が跳ねる。
「すげ……男がこんな、なるかよ……」
ヤスヒロは私の耳元でごくりと喉を鳴らした。背後から左手で私の胸を揉みしだき、私のそこに右手を伸ばしてきた。
「あ、や」
私も声をもらしてしまう。私のそこに触れたヤスヒロの指先はぬるりと滑った。
「ミチコもエロいな」
吐息と共に囁いて、ヤスヒロは私の中に指を埋めた。シンジに埋めた私の指と同じ動きだった。
きつく閉じられたシンジの瞼が震える。受ける刺激に酔い始めているのか、目の前の現実を直視できないのか、そんなのは私にはわからない。
ただ、私はシンジを指で犯すだけ。その快感を味わうだけ。それにヤスヒロがくれるダイレクトな快感が重なって、だんだん胸が苦しくなっていく。
ヤスヒロのくれる快感は体が受け止めていた。シンジを犯す快感は、それとは別のものだった。異なるふたつの快感が私を満たす、私を引き裂く、私を狂わせていく。
私はしっかりとシンジを見つめる。あまり乗り気じゃなかったのが嘘のように、今のシンジは間違いなく快感に酔っている。
頭を振って髪を乱し、色白の頬も胸もほのかに赤みを差していた。壮絶に色っぽい。楽しい。中に入れる指を増やす。さらに奥までシンジを掻き乱す。
「ん――あ、あ、ん!」
何度でも聞きたかった声、女みたいに高く掠れる声。シンジの声は甘えるように私の耳に届く。快感にむせぶ表情から目が離せない。
「あん、ヤスヒロ――」
いきなり腰を掴まれ、ぐっと挿され、私は背をしならせてお尻を突き出した。シャツがめくられ、一瞬、ひやりとした。
振り向いてヤスヒロと舌を絡ませる。顎まで濡れた。かなり苦しい体勢だけど、すっごくいい。唇を離して少しだけ見つめ合った。
頬に感じる視線に目を戻した。うっすらと見開いたシンジの目とぶつかった。
すると、その目尻から、つっと雫が落ちた。でも、シンジは萎えていない。それどころか、それの先からも雫が溢れ始めた。
なんか――すごすぎ……。
涙まで浮かべるシンジ。これだよ、私が見たかったのは。
シンジが何を思っていたって、どう思っていたって、シンジの体はセックスの快感に支配され、シンジを裏切ってまで、それを私に見せてくれる。
すごい!
すごい、すごい、すごい!
だめ、もう、こんなこと続けられない。体を支える膝に力が入らない。シンジを探る指の動きが止まる。ますます激しくなるヤスヒロに、もっともっとと、ねだってしまう。
今までに感じたことのない強烈な快感、きっとこれが私のエクスタシー。私が欲しかったのは、これ、この瞬間――。
「もう、だめ、もう――」
がくっと崩れた体を捩って、ヤスヒロとシンジのあいだから転げ出た。ヤスヒロのものがずるりと抜けたのすら快感だった。
「ミチコ……」
少し困ったようなヤスヒロの声。行き場を失ったヤスヒロの猛々しいものが、ぬらぬらと私の目に映る。
「シンジにしてあげて」
さすがにシンジにすらやさしい気持ちになった。シンジの横にぐったりと体を投げ出し、肩をせわしなく上下させながらシンジを見た。
私の声に、シンジはうつろな目を向けた。ヤスヒロは少しのためらいも見せずに、すぐさまシンジをうつ伏せにした。
ヤスヒロは、ぐいっとシンジの腰を引き上げる。剥き出しになったシンジのそこに、ヤスヒロの滾りきったものが押し入っていった。
「あー……あ、あ、あ!」
シンジは顎を仰け反らせ、大きく目を見開いた。少しの容赦もないヤスヒロの貫きを受け、全身をがくがくと揺らす。
それを私は見つめ続けた。こちらを向いているシンジの顔は目と鼻の先だ。どんなに微妙な表情の変化も手に取るようにわかった。
驚きから戸惑いへ、戸惑いから快感へ、そして――陶酔へ。
「ああ、ヤ、ヤスヒロ……」
苦しそうにもれたシンジの声は掠れていて、想像できなかった甘い毒を含んでいた。呼ばれてさらに昂ぶるヤスヒロを私は見上げた。
信じられない。ヤスヒロのこんな顔。
苦痛を堪えるように歯を食いしばり、眉をよせ、荒々しく息を吐き出す。セックスを楽しむいつもの余裕なんか見当たらなかった。
シンジを揺さぶるヤスヒロの動きは、いよいよ激しさを増す。シンジの腰を掴む指には力が入り、その部分だけシンジの肌は色を失う。掴んだ手でもシンジを揺らしていた。
シンジはシンジでシーツに頬を擦りつけ、しがみつく。きつく閉じた瞼の端から、とめどなく涙がこぼれ続けていた。それでもシンジは感じている。浮いた腰の陰で、シンジのものもだらだらと雫を垂らしていた。
やがてヤスヒロの体はがくっとシンジの上に落ちた。ぴたりと肌が重なる。
「うう……」
ヤスヒロの大きな体に包まれ、シンジは何度も頭を振る。私の方を向いて、止まった。
すすり泣き、悦楽に酔った表情に、私の目は釘付けになる。私はシンジにこれほどの表情をさせられなかったのを思い知る。
ヤスヒロはシンジの細くやわらかな髪に顔を埋めた。鼻先で掻き分け、シンジの耳にキスをした。
「ヤスヒロ……」
シンジの甘えた声に答えるように、ヤスヒロはシンジの耳たぶを口に含む。ヤスヒロの名を一声呼んだきり、シンジの口は薄く開いたまま喘ぎしかもらさなくなった。
涙まみれのシンジの顔と、苦しそうに歪められたヤスヒロの顔を見ているうちに――私の体は次第に強張っていった。ふたりの吐き出す荒々しい息の熱に朦朧としていった。
これは――何だろう。
私は――何をしたんだろう。
私が感じたものは――何だったんだろう。
繋がり、一体となり、果て知れない快楽の頂きまで駆け上っているのは、このふたり。私の抱いた欲望をそのままに体現しているのはヤスヒロ。私の未知の領域で悦楽に酔っているのはシンジ。
つーっと、頬が一筋熱く濡れて、少しして冷えた。すると、体の奥も、心の芯も、凍るように硬く冷えていった。
シンジが声にならない叫びを上げた。仰け反ったシンジを押さえつけてヤスヒロはきつく抱きしめた。ふたりの体が数度、びくびくっと大きく揺れた。シンジの下から白く濁った粘液が飛び出し、私のベッドのシーツに点々と散った。
嫌だな――。
私はまた、同じ思いに悩まされる。
どうして私にはアレがないんだろう?
了
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